エレキ!エレキ!エレキ!
《寺内タケシとブルー・ジーンズのエレキ・スコアーと共に》
(↑譜面がおまけについていた。)

 面倒くさいことは、一切抜きにして、とにかく、とてつもなくイカしているもの。その名はエレキ。今や、エレキで明けて、エレキに暮れる毎日。(イガイに解ってるナ。)そして、今日、そのブームの最先端にいて、フルな、活躍を見せるのが、いわずと知れた、寺内タケシとブルー・ジーンズの面々。テレビにラジオに、劇場に、ジャズ喫茶に、一日とて、欠けることのない、あのサウンド。
 この道を志す人、これを食事代わりにしている人、子守唄に使う人、人皆全部が、打ち揃って、彼等を聞いているのです。
 かく申す私は、仕事の性質上、テレビスタジオで、連中に接する機会を数多く持ちますが、その底に、完全な、熱狂的な、エレキファンのひとりとなってしまいます。
 リーダーの寺内氏の、アイサツは、もっぱら「オス!」と、ひとこと。と同時に、あの実に、気のいい笑顔が浮かぶ。ギターをとり上げてセット、爪がカウント取るかまえ、そして一瞬きびしい目、そこで全員の呼吸が一点に集まって、ほとんど熱っぽい位にエネルギッシュなあの演奏が始まるのです。
 約百二十坪のスタジオにあふれる音は、若者の意気をそのま々感じさせてくれます。
 最近、オリジナルに手を染め、それが、なかなかの好評を得ているギターの加瀬君、この人は、「オス!」とは、云わない。だったら「メス!」って、言うのかって?
 さあ、マジメにやろう。加瀬君、ムード作りを、充分に心得ている人。そのくせ、イタズラッ気も、タップリあって、彼の愛器には鉄腕アトムのシールが張ってあります。
 同じくギターの岡本君、メンバーで一番若いひと。罪のない目をして弾く、その音色に近頃は、グンと自身が加わりました。
 ベース・ギターは、石橋さん。堂々たる押し出しは、ベースの、あのおなかにズーンとこたえる音に、ドンピシャ。彼も又、お茶目。ニクイ冗句を、涼しい顔で言ってのけるのです。
 エレクトーンの鈴木さん、温厚な人。
 解りました。このグループの魅力が、何にあるかという事のひとつに、今、気づきました。その、プレイヤーひとり、ひとりが、それぞれ受持つ楽器に、どこか似た性格の持主なんです。鈴木さんの、自然やさしさは、エレクトーンという楽器に、そっくりではありませんか。
 この間、彼の、すぐ横で聴いている時、鍵盤の上に面白いものを見つけました。小さな白い長方形のキイがずらっと取り付けてあって、そこにバイオリンとか、フリュートとか書いてあるのです。演奏の時そのキイを押すことによって自由にキャラクターを変えられる仕組みになっている訳です。寺内さんのアイディアだそうで、本当に凝ったものです。このレコードにも、既にそれが取り入れられていますが、幅の広さに驚かされます。皆さんも、ジックリ味わってみて下さい。
 ドラムスは、工藤氏。以前に出ている、一枚のLPでも、触れていますが、この人のために、加瀬君が作曲した「ミスター・カーペンター」ご存知でしょうか。ユーモラスなあの曲。部厚い五線紙を捧げられた時の後、工藤氏の表情は見なくても容易に想像がつきますね。ドラム・ソロをボーンと両面に撮った時、ブラウン管からハミ出すのではないかと思う程の気力を示してくれるのは、カーペンター・ミスタークドー、その人です。
 「ブルージン、女心の唄、どう?」(こういう、ディレクターの呼びかけから次のブルー・ジーンズの答え迄、ホンの一寸の間もない)「やりましょう!やりましょ、ついでにまつのき小唄も、行こ!」と、こんな具合にのったらドンドンやってくれちゃう人達です。
 「女心の唄」がエレキになるかななんて疑ったら大間違い。寺内タケシはアレンジャーとしても素晴らしい手腕。クラシックは、ベートーヴェンの「運命」から歌謡曲はそう、「まつのき小唄」迄、オリジナリティを損なわずに、「これは!」と、溜息つかせる、見事なエレキ・ナンバーに、仕立ててくれるのです。
 コーラスも始めたブルー・ジーンズ。「どうも声の調子が冴えない」なんて言いながら、どうして、どうして、いいセンいってます。
 快調のペースで、音合わせが済んだ時など、どうしたわけかギタリストがドラムのスティックを握ったり、なかの誰かさんはストコフスキーばりの指揮をしたり、そうこうするうち、「ハッ!」「ヨオッ!」といった合いの手がかかったり、まあ、にぎやかなこと、にぎやかなこと。その辺は、それこそプロ、アマ問わず、エレキ愛好家なら誰にも解る結構なムードでしょう。
 テレビ局は夜中の十二時に会っても、「オハヨウ」のスタイル。夜が無いのです。いつも緊張しているわけで、おまけにコンボ・バンドメンは長時間立ったり、動いたりしなくてはならない。けれど文句の、「も」の字も彼等の口から出た事がありません。「タフ」人の中でも特にタフ。ステキな若さを感じます。
 食堂で談笑しながら、バリバリ平らげる彼等。背中の汗を冷房に冷やされて大きなクシャミをする彼等。真っ赤なステージ・スーツに一寸照れてる彼等。本当に嬉しい存在です。
 さて、この度の「エレキ!エレキ!エレキ!」は豊富なテクニックとソフィスティケイテッドな感覚をもって、ブルー・ジーンズが世のエレキ・ファンに贈る魅力のヒット・パレードですが、それぞれ工夫を凝らしたアレンジで楽しんで頂けると思います。うち、オリジナルが二曲、B面の「涙のギター」と、A面の「雨の想い出」が、それです。日本人の手になるエレキ・ナンバーと、海を渡って来たものを聴き分けて下さい。
 まず、トップの「ゴールドフィンガー」弾く時は、ウンと硬く硬くいきましょう。シンバルの上に、タンバリンを乗せて叩く、おなじみのスタイル。イントロダクションと、エンディングに置いたチューブ・ベルが、スゴミのある、この曲を、素晴らしくあざやかにしています。
 「雨の想い出」、加瀬邦彦作曲、1曲出来上ると、なにやら恥かし気に、そっとメンバーに差し出すのでそうです。いかにも彼らしいですね。そのテレ屋から生まれた佳作のひとつがこれです。マイナー・コードで流した、これは、きっとラヴ・ソングでしょう。聴き所はサビの部分、マンドリン風のギターがきれいです。
 「スイムで行こう」、ベース・ギターと、ボンゴの掛合いが小気味良い今夏のヒット。全編歯切れよくまとまっています。
 「カレン」、サビの高音のコーラスは、誰にも簡単につけられるでしょう。それから、後半は特にリード・ギターの腕のみせどころ。ベース・ギターのひとかきで終わる終わり方が、ユーモラスで泣かせます。
 「青空に両手を」ヴォーカルの方が学生歌風にうたい上げていますから、その味をそのままに特別の技巧をこらさずに、軽く演奏しています。
 「ドゥア・ディディ・ディディ」このLPを流して、今まさに練習しょうと、エレキを、かまえた方、早速、チリチリチリと張った音を作ってみて下さい。コーダはレコードの様にフェード・アウトはムリだとしてもスィーッと滑らかに終わって下さい。
 「ダイアモンド・ヘッド」「シビれる!」そう、解っています。少し硬めの音が、冴えきってます。オフにあつらえたエレクトーンが効果を上げてます。息もつかせぬ迫力に酔って下さい。
 「朝日のあたる家」、来日外国タレントの中でも特にかわれたジ・アニマルズのヒット。アタマ8小節は、リード・ギター・ソロそれにエレクトーンが加わり、次でドラムス、ベース・ギターが重なってゆき、後半、一気に盛り上るのです。メロディーを受持つエレクトーンにからむギター群の妙味をじっくり聴きましょう。
 「涙のギター」、作曲は、すぎやまこういち。前にのべたオリジナルです。あらゆる音楽を消化しきった者の余裕のあるエレキ・ナンバーの傑作です。日本民謡に似たフレーズがほの見える画期的なこの曲。ギターのブレークも効く所に決まっていて非常に楽しめます。間もなくシングル盤にもプレスするとのこと。大活躍を期待しましょう。
 「ミスター・ムーンライト」、エレキも時にはこんなにソフトです。女性のために用意された甘いカクテルの感じです。
 「アイ・フィール・ファイン」エレキ道に入って間もない人も容易にとけこめます。ビートルズのものは従来のロックとはずい分変わってる割にすぐ覚えられるものが多い様です。ブルー・ジーンズをバックにひとつ歌ってみませんか。
 「のっぽのサリー」、コーラスが入りました。思いっきりシャウトしてます。ここでも、エレクトーンがヴォーカルの陰に実にうまく使われてます。
 何度聴いても、新鮮さに変わりのない、寺内タケシとブルー・ジーンズの演奏。「薬より効果、エレキでいこう!」を合言葉に存分に楽しんで下さい。

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