ベスト・オブ・ブルージンズ
演奏・寺内タケシとブルージンズ(この頃はブルージーンズではなくブルージンズだった)

寺内タケシとブルージンズ
 我が日本のロック界をリードする寺内タケシとブルージンズが、お得意のギター・サウンドを駆使してお届けする最新盤。このアルバムにはアメリカの誇る世界的な器楽演奏グループ“ザ・ヴェンチャーズ”の名作から、この世界で今やスタンダード化している佳曲、ブルージンズのオリジナル、流行のリヴァプール・サウンドからの抜粋曲、はては日本の古謡までとびだす、大変レパートリーの広い内容をうちだしたアルバムです。これもブルージンズならではの選曲でありましょう。寺内タケシとブルージンズは我が国最高の実力と人気をもつロック・グループです。いや、そればかりか私はつねづねこのグループなら世界のどのステージに出してもけっしてはずかしくない超一流のバンドである、と思っています。寺内のリード・ギター、これはもう本場のプレイヤーをうわまわるほどの腕をもっているし、彼を助ける同じリードの加瀬のテクニックも水準にたっする出来ばえ。さらに加えてドラムスの工藤文雄。海外のロック・バンドに目を転じても、彼ぐらい安定した、切れのいいドラマーは、そう沢山は存在しません。このグループがスタートしたのは1962年のことで、それ以来今日まで、つねに勉強につぐ勉強、練習につぐ練習をもって日本を代表するロック・バンドに成長いたしました。
メンバーは
寺内タケシ(リーダー&リード・ギター)
加瀬邦彦(リード・ギター)(サイド・ギターとか2ndギターとかではない)
市山正英(リズム・ギター)
石橋四郎(ベース・ギター)
鈴木八郎(エレクトーン)
工藤文雄(ドラムス)

〈第1面〉
1. 青い渚をぶっとばせ
 寺内タケシ一族の演奏、まずはアメリカの“ブルージンズ”ともいえる人気グループ、そして、今年の1月来日して大成功を収めたザ・ヴェンチャーズの演奏で知られる曲。作曲は同グループのメンバー4人、ドン、ボブ、ノーキー、メルです。タイトルからしてお分かりいただけるように、ものは今流行のレッキとした“サーフィン”ナンバー。オリジナルでは揮然とした派手な音を売りものにしておりましたが、ここでは切れのいい工藤のスティックさばきと寺内のリードが、まるで会話を楽しむがごとく、ピリッとしまった演奏を聞かせてくれます。
2. アパッチ
 世界中のギターを中心としたロック・コンボに愛されているおなじみの曲。1960年にイギリスの売れっ子作曲家ジェリー・ローダンが書き、同年夏ザ・シャドウズの演奏でイギリスのヒット・パレード界を荒しまわった曲ですが、翌'61年春にはデンマークのギタリスト、ヨルゲン・イングマンの盤がアメリカに渡って大ヒットとなり、以後、世界的なヒット作となりました。ブルージンズもさすがに手なれた曲だけに、これを完全に自己の曲として弾きこなしております。もっとも寺内などは過去3〜4年を通算して、恐らく千回に及ぶ演奏をつみ重ねていることでありましょうが・・・。
3. ブルージンNo.1
 我がブルージンズが世界の舞台にでて演奏しても、けっしてはずかしくないロック・コンボである点は先程も申しあげました。ところで、最近は世界中どこへ行っても立派に通用する日本産のヒット・ソングが沢山ある点も忘れてはならないでしょう。この曲もそうした中の1曲です。作曲は加瀬邦彦、アレンジは寺内タケシ。サーフィンで一躍ロック・コンボ界のアイドルになったリード、リズム、ベースのギターと鈴木八郎のハモンド・オルガンがツボを得たダイナミックなサウンドを作りだしてくれます。
4. 恋のダイアモンド・リング
 ディーン・マーティンと組んで数々の底抜け映画を送りだしたおなじみの喜劇役者ジェリー・ルイスの息子ゲリー・ルイスが、その仲間プレイ・ボーイズをひきつれてレコード界にデビューしたのは今年の初め。この曲はそのデビューを飾った記念すべき曲です。ところが、いざレコードが発売されるとアレヨアレヨのうちに大ヒットとなり、2月の全米ヒット・パレードの第1位にランクされました。心をこめて彼女に贈ったホンモノのダイヤを返されて“今一度このダイヤを光らせるような恋が欲しい”と願っているブルーな失恋男の気持をテーマにしたもので、ブルージンズも、そのさびしげな気持をよく表現しております。
5. 荒城の月
 “春高楼の花の宴、めぐる盃かげさして、千代の松が枝わけいでし、昔の光今いずこ”(1番)の歌詞で知られるわが日本のメロディー。作詞は土井晩翠(ただし、この盤では演奏のみ)、作曲は他に「花」、「箱根の山」、「秋の月」といった佳曲を沢山書いている滝廉太郎。ここでは寺内タケシのアレンジでかなりニクイ“インストゥルメンタル・ナンバー”に衣更えされております。前半は寺内のリードが琴の音を打ち出し、鈴木八郎のハモンドと共に日本古来のおごそかなムードを作り、後半は一転してアップ・テンポの“ヒット・ソング盤荒城の月”(The moon over the ruined castle)。一聴の価値があるでしょう。
6. アイ・ゴー・トウ・ピーセス
 アメリカはもとより、イギリスでもバカもてしている人気歌手デル・シャノンは、作曲家としても多才な面をもっておりますが、この曲はデル自身が作詞、作曲、今年の4月に来日公演して評判をとったデュエット・チーム“ピーターとゴードン”の歌で当りをとりました。アメリカではこの2月に全米ヒット・パレードのベスト10内に輝いております。リヴァプール・サウンド特有のビートに乗って、寺内のリード・ギターと鈴木のハモンドが、恋のトリコになってしまった青春期の感情を美しく歌いあげます。
〈第2面〉
1. サクラサクラ
 「越天楽」などと並ぶ日本古謡の代表作。“さくらさくらやよいの空は見渡すかぎりかすみか雲か匂いぞ出ずるいざやいぎや見に行かん”の言葉で、日本人なら一度はくちにしたことのあるこの曲、このメロディー。しかし、ブルージンズの演奏ともなると、また違った新鮮味のあるインストゥルメンタル・ナンバーと化しております。とくにエンディング(フェイド・アウト)近くで聞かせる寺内のアドリブ・ソロが、ちょっとした聞きもの。
2. 夢のマリナー号
 先程もお伝えしたアメリカ・ナンバー・ワンのギター・インストゥルメンタル・グルーブ“ザ・ヴェンチャーズ”の最新盤(アルバム原題 "Knock me out")から1曲。作曲は彼等ドン・ウィルスン、ボブ・ボーグル、ノーキー・エドワーズ、メル・テイラーの4人で、ドンとボブの経営する音楽出版社 "Dobo Publishing" で曲を保管しているというナンバー。鈴木のハモンドを加えて、サーフィン、またはヨーロッパ組のトーネドーズやスプートニクスで代表されるスペース・ミュージック(宇宙をテーマにした音楽)の中間を行く、独特のサウンドを作りだしております。
3. マイ・ラヴ
 再び日本のオリジナル曲です。「恋のバカンス」、「ウナ・セラ・ディ東京」、「ふりむかないで」といったバタ臭い、ヨーロッパ・ムード満点の曲をいっぱい書いている宮川泰作曲(詩は安井かずみ)。 “マイ・ラヴ 誰も知らない あたしの胸に住む恋を マイ・ラヴ ねむれない程 あつい想いで あなたを呼ぶ”といった内容の恋の歌。“トワンギー”ぎみなドスのきいたリード・ギターが力強く胸の内をうったえます。
4. ブルドッグ
 ギターを売りものにしたロック・コンボには、まず欠くことのできないスタンダード・ナンバー。オリジナル演奏はニューメキシコで名乗りをあげた白人男性4人組“ザ・ファイアーボールズ”(他に「クワイト・ア・パーティー」とか「トークェイ」といったヒットを放っている)で、アメリカでもかなりの評判をとった曲です。作曲は同グループのリーダーでリードを担当していたジョージ・トムスコ。チェンジ・オブ・ベースよろしく、気の合ったアンサンブルで、この名曲が一段と光ってくるみたい。弾いて楽しい、聞いて楽しい曲でありましょう。
5. ギター・オブ・ファイア
 似たようなタイトルもあり、また、大変明かるい、イカす曲ですので、あるいはお間違いになる方がいらっしやるかも知れませんが、じつはこの曲レッキとした我がブルージンズのオリジナル曲なんです。「ブルージンNo.1」を書いた加瀬邦彦作曲、寺内タケシ編曲。快調なリズムに乗って、リードとハモンドが、縦横無尽にメロディーを作っていきます。エレキ・ギターといわれるこの種のギターの魅力は、こうした曲から感じとることができるでしょう。
6. 悲しき願い
 さてブルージンズの演奏お別れは、今や世界の市場になぐり込みをかけているイギリスの“リヴァプール・サウンド”といわれるグルーブの中でも、とくに黒っぽいファンキー・ムードを売りものとするジ・アニマルズ(ご存知「朝日のあたる家」や「アイム・クライング」、「ブーン・ブーン」などのヒット曲をもつ)の歌で人気を得た話題曲。イギリスのヒット・パレード (New Musical Express) では2月末に第4位まで、アメリカでは3月末現在ベスト20内に入って、なおも上昇を続けている曲。ここでの演奏も曲が曲だけに多分に黒人のムードを感じさせずにはおきません。

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