世界はテリーを待っている

 皆さまお待ちかねの寺内タケシとバニーズのLP第三弾を御紹介いたしましょう。LP第1作「バニーズ誕生」(SKK-285)は寺内タケシのオリジナルを中心とした力作。第2作「正調寺内節」(SKK-307)は、歌舞伎、長唄、民謡をアレンジしたエレキ民謡路線の秀作でしたが、今回はジャズ、フォークのスタンダード・ナンバーをバニーズ流にアレンジし、さまざまなビートにのせ、オリジナリティ豊かに演奏したLPです。特に注目に値するのは、各曲ごとに寺内タケシのギター奏法が異なり、またガット・ギター・ソロも加えて、寺内タケシの芸域の広さを示してくれます。エレキ民謡の元祖であり、またロック・エレキのナンバー・ワンと世界的に認められている彼が、今回のLPによって更に、ジャズやウェスターンギター奏者としても超一流のテクニックとハートを持っていることが良くおわかりになっていただけることと思います。「ローマは一日にして成らず」という諺がありますが、寺内タケシの場合も、幼い時から叩きこまれた負けじ魂と、クラシック・ギターから学んだ高度のテクニック、そして電気学への深い造けい、時流に敏感な感受性の四者が一致して初めてこのLPで示されたような独創的なプレイを生みだすことが出来るのです。
 寺内タケシの偉業に温かい声援を送ると共に、今後の活躍に大いに期待いたしましょう。

(Side.1)
1. ライダース・イン・ザ・スカイ
 なつかしいウェスタン・ナンバーで「空かける騎士」という邦題でわが国で親しまれています。10年前に寺内タケシがジミー時田とマウンテン・プレイボーイズに加っている頃には、ジミーの歌と寺内のギターのかけ合いでウェスタン・ファンの血を躍らせたものです。ここでは早いロック・テンポにより、ダイナミックな低音部のギター・ソロを中心に軽快な演奏を行います。またエコー・マシーンの特殊操作によるギターの擬音が、この曲にふさわしいミステリー・サウンドを作りあげます。
2. 朝日のあたる家
 フォーク・ソングの代表曲であり、またバニーズ・ファンの待ちこがれていた演奏であります。ダイナミックなイントロから一転して井上正の尺八ソロヘと入ります。哀調切々たる音色が聴く人の心をしめつけます。そして寺内のギター・ソロヘと受け継がれドラマチックなエンディングヘと入って行きます。
3. 朝日のようにさわやかに
 ジャズのスタンダード・ナンバーとしてわが国でも非常にポピュラーになっている曲です。ここではメディアムのバニーズ・テンポにのって寺内タケシのリラックスしたプレイを満喫することができます。
4. 世界は日の出を待っている
 古いジャズ・クラリネット奏者、ジョージ・ルイスの名盤でおなじみの曲です。ここでは、早い2ビートにのって寺内タケシのウェスタンのフィーリングを取り入れたすばらしい曲弾きが聞きものです。まさに激流のようなはげしいプレイですね。こうした指さばきは日常のきびしいトレーニングなしには出来ません。
5. モーニン
 アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの演奏ですっかり日本でおなじみとなった曲ですが、寺内タケシとバニーズが演奏するとまた別のムードが出てきます。このビートとフィーリングが、今日若い人達に求められているものです。寺内独特の音色をお楽しみ下さい。
6. シャイン
 ベニー・グッドマンの演奏で知られている古いジャズの曲ですがここでは寺内タケシのガット・ギターと小野撃のベースのみの演奏です。寺内タケシの最も尊敬するギターリスト、チェット・アトキンスのスタイルをとり入れた軽快な演奏で、このスタイルのギターを弾けるのは日本では寺内タケシ唯一人です。リズムの乗りと言いテクニックのすばらしさと言い“世界のテリー”にふさわしい出来栄えです。
(Side. 2)
1. ナイト・トレイン
 火の出るようなバニーズのシェイク・ビートにのり、ドラムの井上正がメンバー紹介を行い、楽器が徐々に増えてダイナミックなバニーズの演奏に入ります。そしてこのアルバム中で最もスリリングな寺内タケシのアドリブが初まります。このアドリブで寺内タケシは弦が熱くなって火傷をしたことを附記しておきましょう。それほど白熱化したプレイでした。
2. 夕日に赤い帆
 ここでは寺内タケシの低音ギターが特色となっています。曲は毎年夏になるとヒットするポピュラー・ソングのスタンダード・ナンバーですが、吹込に際してのミーティングの結果、独特な低音ムードを出すことにして、ギターのチューニングを半音下げて(第6弦をEbとして全部それに合せた)、ビョーンという音色を出すことに成功しました。アメリカではこういうギターをトワンギー・ギターと言って、デュアン・エディと言う人が弾いていますが、それにも増して、独特なエキゾティックなサウンドとなっています。
3. ブルー・ムーン
 たいへんお古い曲ですが、ここではラテン・ロック・スタイルにアレンジし、2年後のメキシコ・オリンピックに備えました。シェイクとチャ・チャ・チャをミックスしたビートにのせて寺内タケシのギターがあばれます。ラテン・リズムの楽器としてカウベルとキハダを加え、ギターの弦を叩いてボンゴのサウンドを出しました。
4. スターダスト
 ボーギー・カーマイケルの不朽の名作ですが、ここではオリジナルに忠実に寺内タケシは高音部を中心に甘い音色で演奏します。こうしたムードものは元来、寺内タケシの最も好きなスタイルですが、ステージなどでは減多に聞くことが出来ず、このLPをお聞きになる方にだけ御披露するわけです。
5. ムーン・リバー
 「ティファニーで朝食を」のテーマ・ミュージックとしておなじみの曲です。ここではバニーズ・サウンドによるロック・ビートで原曲とは異ったムードを作り出しています。たくましいギターの音色と、バニーズの魂のこもった演奏がききどころです。
6. カミン・ホーム・ベビー
 アルバムの最後は、バニーズが労音や地方のステージで絶讃をはくしたお楽しみナンバーです。楽器の分担がここではガラリと変ります。ドラム−寺内タケシ、ベース−小野肇、ギター−黒沢博、フルート−輿石秀之、バイブ−荻野達也、尺八−井上正、のスペシャル編成により、バニーズ・ファンには信じられないような、モダーンジャズの演奏となります。“バニーズは音楽のデパート”といいたくなるような多角経営ぶりで、それぞれが専門外の楽器を担当していますが、仲々立派な演奏をきかせてくれます。リーダー寺内タケシの厳しい音楽に対する執念がこの演奏で知ることができます。アルバムの最後を飾るにふさわしい快演です。

★寺内タケシとバニーズ
●寺内タケシ(リーダー、リード・ギター)
“エレキ・ギターの神様”とその道を志す若い人達に崇められている男。“寺内ブシ”といわれる独特のサウンドとアドリヴ・ソロはまことに素晴らしく、我が国ポップス界に多大な影響を与えている。そして演奏面のみならず、作曲・編曲の分野においても今後の活躍が非常に楽しみな大物である。
●黒沢 博(サイド・ギター)
弱冠19才。長身で、力強い奏法と歌いっぷりは若いファンに大変な人気。東宝の俳優黒沢年男を兄にもち、兄弟そろって女性によくもてる男前である。寺内タケシのきびしい指導で数年後の成長ぶりが楽しみである。
●興石秀之(リズム・ギター)
リズム・ギターを受持つと共に、甘い声の魅力を十二分に生かして、このグループのヴォーカルの重要なパートをまかせられている。寺内タケシの出身校関東学院大学に在学中である。
●荻野達也(エレクトーン)
ギター、スチール・ギター、ピアノ、ヴァイブラフォン、エレクトーンと5種の楽器を独学で習得、どれをひかせてもまことにモダンでヴァイタリティーあふれるフレーズを駆使してすばらしい演奏を披露する。又、作詩・作曲の才能も豊かで新鮮である。
●小野 肇(ベース)
「横浜にベースの小野あり」との声を寺内タケシがききこみ、そのリズミカルなプレイにほれ込んでスカウトしたもの。ベース歴は2年たらずだが、大変な根性の持主で勉強熱心なことでは人後に落ちない。剣道4段という腕前もまた見事である。
●井上正(ドラムス)
強力なドラマーが誕生したものである。タフで頑健で身長177cmとドラマーとしてうってつけの体をもっており、この吹き込み時には、スネヤ・ドラムとバス・ドラムをボロボロにしたほど。その豪快なドラミングは見ていてもスカッとしたものを感じさせる。又、彼は尺入の名取りであり、さる寺院で吹いていた時に、通りかかった虚無僧がおじぎをして通り過ぎていったというほどにその音色は実に美しい。

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