レッツ・ゴー・エレキ交響曲

「寺内タケシ&バニーズ」が解散し、新グループ「寺内タケシ&ブルージーンズ」が結成された時、すでにこの2枚組LPの企画は始まっていた。あまりにも「レッツ・ゴー運命」(LP) が大きなヒットになり、新メンバー「ブルージーンズ」に形が変ってからも相変らず大きな売り上げを示していた為、うかつに新メンバーで、新吹込みをする事は出来なかった。
 以前のものより数段よくなった時、再び、この大企画に寺内タケシは挑戦する事になっていた。
 昭和45年6月、機は熟し、この企画は動き出した。前作の12曲はもちろん新しく12曲がこれに加わり、24曲を一気に新録音しなければならないのである。
 まず第一段階は新しい12曲の選曲から始まった。クラシックの膨大な数の中から、素材として使用する曲を選ぶ事は、一見簡単にみえ、実は一番神経を使い、かつ出来上った作品の良し悪しを大きく左右してしまうことなのだ。この為、寺内タケシ、及び制作スタッフは、これまた大変な数のクラシック・レコードを聴かねばならなかった。耳から入ってくるモーツァルトもドヴォルザークも頭の中では直ちに寺内タケシのエレキ・ギターに早変りしてしまっていた。
 こうして選曲が終了し、第二段階の編曲に移ってゆくと、いよいよ編曲者、寺内タケシがそれぞれの曲の作曲家と苦悩の対決をするわけである。ベートーヴェン、シューベルト、チャイコフスキー、ブラームスー・・・24曲どの曲をとってみてもすべて名曲中の名曲であり、もはや編曲しようのない作曲なのである。この為、いつものようにスラスラと筆を走らせる訳にはいかなかった。
 原曲の良さを損ねないようにし、かつ、そこからエレクトリックでモダンなサウンドに乗せても少しもおかしくない現代性を引き出さねばならなかった。もう一つ大きな障害となり寺内タケシの前に立ちはだかったことは前作でもそうであったように、クラシックの曲はすべてその時代、時代の楽器によって演奏されていた事であった。これは当り前のことであるが、ヴァイオリンなり、チェロなり、ピアノなり、その他のクラシック・楽器は、寺内タケシのギターの指運(指使い)とは大変かけはなれているのである。ある楽器の為に作品された曲は、その楽器のみが可能なテクニックと音域が使われている為、それをエレキ・ギターで奏する事は大変困難な場合が、かなり出て来るのである。寺内タケシが、この24曲の編曲上で苦労した事は他にも多々あったが、書ききれず省略!
 編曲が出来上がると第三段階は、メンバーとの打合わせと練習である。普段やりなれているものとは違い、数倍の時間がかかった。しかし、メンバーには前作のバニーズには負けまいとするアーチスト特有の闘魂が感じられ、練習場は深夜から、夜明けまで灯りがこうこうとともっていた。こうして血のにじむような第三段階の練習をへて、ようやく吹込みという第四段階に入るのである。
 スタジオでの寺内タケシは実に愉快である。前日までの編曲や練習の苦労などは、どこ吹く風と、実に楽しくやっている。もち論、最終段階であるから神経だけは相変らずピリピリ張りつめている。寺内タケシは、音楽上だけでなく録音技術上でも大変よく研究している、担当ミキサーA氏も寺内タケシの吹込の際は、かなり緊張するし、気も入っていると話していた。このようにしてここに完成した「レッツ・ゴー・エレキ交響曲」の2枚組は、御世辞でなく“世界のポピュラー・レコード史に残る日本では数少ない作品”と賞讃されていいであろう。

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1.チゴイネルワイゼン
 19世紀の三大ヴァイリニストの一人、サラサーテの作品です。ハンガリアのジプシー音楽に発想を得て愛愁をこめたメロディーとともにヴァイオリンのあらゆる技巧を結集した難曲、作曲された当時は、サラサーテの他にこの曲を弾けるヴァイオリニストはいなかったといわれています。寺内は自分の解釈で編曲し、このアルバム中でも最も面白い作風を創り出しました。
2.ピアノ・コンチェルトNo.1
 ロシア最大の作曲家チャイコフスキーが34才の時の作品。チャイコフスキーらしし、抒情感と豪華けんらんたる第一楽章を、リズミックに寺内タケシは演奏しています。山根がエレクトーンからピアノにもちかえ原曲の雰囲気を出しています。
3.軽騎兵
 ベルギー系、イタリア人、スッペの作品、喜歌劇「軽騎兵」の序曲を取り上げました。この序曲は、あらゆる人に好まれており、寺内のギターも軽騎兵の立風爽たる姿を思わせる軽快なメロディーで始めています。
4.家路〈新世界交響曲〉
 チェコの作曲家、ドヴォルザークの交響曲第9番、別名「新世界交響曲」として親しまれている作品の第二楽章を取り上げました。抒情性豊かなこの作品を、寺内タケシは歌心をギターにたくし、非常に美しく奏でています。
5.ハンガリー舞曲第5番
 ブラームスのハンガリー舞曲の中でも最もポピュラーな名曲。この曲では、寺内タケシのギター・テクニックとブルージーンズのリズム感の良さが大変よく解かります。寺内タケシのギター・テクニックは幼い頃からたたきこまれたクラシック・ギターが基礎となっており、それにエレキ・アンプの音色の操作と持って生まれた鋭いリズム感が三者一体となって完成されています。
6.笛吹きと犬
 プライアーの小品であるこの曲は非常に楽しく、セミ・クラシック中でも最もポピュラーなものとして親しまれています。このアルバムの中でも、楽しさを表に出した構成・編曲となっており、犬の声の摸写などもユーモラスで、聴く人を笑いの中につつみ込んでしまう楽しい作品になっています。
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1.天国と地獄
 ドイツの作曲家、オッフェンバックの喜歌劇から音楽ファンならば一度は聴いた事がある明朗で、かつ甘美な曲です。寺内タケシのダイナミックなギターが、ブルージーンズの快いビートに乗って、軽快に弾きまくります。
2.カルメン
 ビゼーの名高いオペラの中がら「闘牛士の歌」を取り上げ、それに寺内タケシが書きおろしたセンチメンタルなメロデイーを随所に加えて、ここに新しい「カルメン」が生まれました。リズムの変化に伴ってギターの音色も変わり、その構成のおもしろさが聞く人を楽しませてくれます。
3.軍隊行進曲
 「歌曲の王」と呼ばれるシューベルトがピアノの連弾用に書いた行進曲です。
4.白鳥の湖
 三大バレー名曲の中でも、もっとも有名なチャイコフスキーの「白鳥の湖」です。幻想的且つ甘美なメロディを、今回は太三味線 (太ザオ) で演奏してます。哀愁をおびた幻想的な音が、大変印象的です。
5.英堆ポロネーズ
 ピアノ曲としてショパンが作曲したポロネーズの中の代表作。この曲が最初がらギター曲であったかのような感を与える程、寺内タケシのギターは流麗な感じで弾いています。
6.トルコ行進曲
 モーツァルトが22才の時に書いたピアノ・ソナタ11番の第三楽章がこの曲です。東洋的なムードを秘めたこの曲は、サイド・ギターの相田幹夫がソロを取っています。この曲は典型的なピアノ曲で、ギターの指使いでは考えられない音のならびになっており、相田幹夫がこの吹込みでもっとも緊張した顔を、この時は見せてくれました。
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1.運命
 前作のLPでも、最も話題を呼び、シングル・レコードとしても大ヒットした曲、もちろん誰でも知っているベートーヴェンのシンフォニー第5番です。ここでは目まぐるしいまでの寺内タケシのテクニックが聴かせどころになっています。このスケールの大きな難曲をみごとに弾きこなしているのを聴いたなら、さぞや、ベートーヴェンもびっくり!する事でしょう。
2.熊峰の飛行
 リムスキー・コルサコフが作曲した速いテンポの曲で「バンブル・ブギー」というタイトルでポピュラー化され、ピアニストが好んで取り上げています。寺内タケシは、自分で開発したニュー・エレキサウンド、バズトーン(Buzz-Tone)を採用して、原曲以上のすさまじさを出す事に成功しました。テクニック的にも寺内の最上のものを出した曲の一つです。
3.未完成
 シューベルトの「未完成」がエレキ・サウンドになると、こんなに新しいものになります。原曲を巧みにアレンジして寺内独得の未完成がここに完成しています。
4.乙女の祈り
 ポーランドの女流ピアニスト、バダルチェフスカが18才の時に作曲した最も有名なピアノ入門曲。彼女は24才でこの世を去ったが、いかにも若い乙女の祈りと憧がれがく出ています。寺内タケシはこの原曲のムードをよく理解し、やさしさをこめた優雅な演奏になっているのがわかります。
5.エリーゼのために
 ベートヴェンのクラシック小品の中でもっともポピュラーとなっている曲です。ここでは前の乙女の祈っとは少し違ったダイナミックな曲に仕上っています。
6.ある晴れた日に
 長崎を舞台にしたプッチーニのオペラ「蝶々夫人」から最も有名なアリア「ある晴れた日に」を取り上げ、ロマンチックな演奏を展開してます。ロマンチスト、寺内タケシの人柄がにじみでるような甘く感傷的なギター・ソロが聞きどころとなっています。特にトレモロ・ソロが聴きどころです。
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1.アルルの女
 19世紀のフランスの作家、ドーデーの戯曲の劇中音楽として、ビゼーが書いた作品です。大オーケストラで演奏されるこの曲も寺内にかかるとエレキコンボの持味を生かし、あのダイナミックな味は決してそこなわれず、スリルのある演奏になっています。
2.剣の舞
 ハチャトリアンの作曲になる現代音楽で、ジャズ化されてビッグ・バンド・ジャズとして好んで演奏されておりますが、ここでは、ブルージーンズがビッグ・バンド以上のダイナミックでスケールの大きい演奏を展開しています。リズムの歯切れの良さと重要なサウンドが聴きどころです。
3.ペルシャの市場にて
 ケテルビーのポピュラー名曲として、又ホーム・ミュージックとして非常にポピュラーになっていますが、ここでは異国情緒豊かにドラが活躍します。市場風景の描写と寺内タケシの美しいギター・ソロが印象的です。
4.ドナウ川のさざなみ
 イバノビチ作曲のワルツの名曲です。この曲もポップスコンサートやジャズにアレンジして好んで演奏されるポピュラーな作品です。のどかなドナウ川の情景を表現しています。
5.ショパンのノクターン
 カーメン・キャバレロの「愛情物語」で一躍有名になったピアノ曲です。原曲も元来ピアノ曲として書かれており、それを寺内タケシのソロ・ギターだけで演奏するのですから、大変な技巧と音楽性が必要になって来ます。演奏に際しても、ミスは許されない為、非常に神経を使い、3日間にわたる猛レッスンを経て、初めて完成したものです。
6.結婚行進曲
 結婚行進曲にはワーグナーとメンデルスゾーンの二つの作品がありますが、ここでは重厚なメンデルスゾーンの作品を取り上げています。24曲中で初めてニュー・ロック風なリズムに乗せ、アドリヴ部分に入ると大変スリリングな演奏を展開しておりサスガ寺内!という感をあたえます。

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