エレキ民謡大全集

■寺内タケシの苦心談 寺内タケシ
 僕はこの企画が決定となった時、「これは大変なことになった。」と、一言つぶやいたね。日本の民謡、これを音楽的に見てみると何とリズムが洋楽にはあてはまらないことか!またメロディーではこぶしの多いことか!コードのつけにくいことよ!とにかくアレンジがむずかしいのであります。第一番めはリズム。日本のリズムを良く研究してみると、現代のそれとよく似ていることに気がつきます。また未来にはこうなるであろうと暗示を受けるようなものがあります。一方、非常に困り果てた曲には、“磯節”があります。この原曲は舟をこぎながら歌うものですけれど、声の調子の良い時は二こぎのばす・・・これから考えると海にはその日によりウネリが違います。いろいろと頭の中を整理した結果、この曲にはリズムがあってないようなもの? 何とも困り果ててました。そこで音楽的に原曲の味をだすことに苦心をしてこのアレンジがあがりました。第二番目はメロディー・・・民謡のメロディにはやたらこぶしが多いのは皆様よくご存知のはずです。さて、このこぶしを使いながら一つの言葉で何小節も歌う場合、ギターに言葉はなく、またそんなに音はのびるものではないのです。これを打開する為エコーマシン、ファズトーン等々を使い、これでもだめな時はやむなくテンポをあげてアレンジをし、がんばったと言うわれです。第三番めはハーモニー・・・日本的なメロにコードをつける場合、幾通りものコード進行があります。これらのどれを使ってもまちがいではないのです。ただ、どれを選んだら一番その時の感じが出るかというところに問題があり、コードをつけないで二つだけの音の方が良い場合が応々にして出て来ます。大体が大編成でやっているものは少なく、多くても5人というところで歌っているのが普通ですから!!
 一例として“御神楽”“祭ばやし”これは洋楽ではとうていあらわせない我々の音楽ではないかと思います。この様なわけで日本の音楽と洋楽の結婚式には仲人として楽しみながら苦心いたしました。  以上、三点に加えて僕の大問題としては、アレンジャーとしてアレンジのみを考えた場合はともするとプレイヤーの持味を無視してアレンジを完成させる手段を取る時が応々にしてあります。この場合、アレンジかプレイか、プレイかアレンジかと迷う事が良くありました。熟考した挙句結論として、あたりまえのことですが、プレイヤーの為にアレンジがあるという一大原則になります。近頃のレコードにはこの逆のケースがままあります。その場合、タイトルには・・・アレンジ集として出すべきだと固く心に決め録音に臨みました。ですから、このレコードはプレイを聞いていただくのが第一、アレンジはその次です。この話と関連して何年か前のアレンジで同じギター・プレイヤーが同じ曲をひく、この事は一言で言うなら、そのプレイヤーの日記を音で表わしたものだと思っています。先日、こんな話をあるプレイヤーより聞いた時に、何でここが判ってもらえないかと口措しく思ったものです。まだプレイをはじめてから2年位の人でしたけれど・・・。「貴方は毎日のステージで何で同じ曲をひいているのですか、良くあきませんねえ。同じことばかりをやっていてマンネリになりませんか?」
「新曲をあげて前進しないのですか?」等々、この言葉を良く考えてみます。新しいものをやるのはすぐにでもできることです。また一番簡単にファンの皆様に喜んでいただけることです。ただし、このレコードをお聞きの皆様にこの様なたやすいことで、“寺内よくやった”と言っていただける方は一人もいないと、確信致します。落語で何回聞いても同じ所で笑いがくる、同じ所で泣きが来るこれは他人が真似てもできない“何か”があるからです。僕はこの“何か”を見つける為にバカと言われ、気狂いと言われても、1年でも2年でも同じ曲をひき続けるつもりであります。
 さて、この“何か”とは!!
 いろいろなプレイヤーが同じ曲をプレイした場合、必らず聞く方の受け取り方が違うはずです。これはひとりひとりに違う“何か”があるからです。結論を急ぎます。“何か”とはそのプレイヤーの“心”です。ハートです。ハートでプレイする為にいろいろな人から気狂いと言われても一つの課題、すなわち、同じ曲で毎日毎日、研究を続けた結果、ここに僕の日記を音で表わしたコードを発表いたします。前のレコードをお持ちの方は同じ曲を、古い方、新しい方とお聞き下さい。必らず、ギター気狂いが考えていたことを判っていただけるはずです。このレコードを作るにあたっての苦心談としては、誰にも言えない程、淋しく、悲しく、厳しい3年間でした。でも、今となっては楽しい想い出です。初心にかえりエレキ一筋、24年間を無駄にしない様、これからも、苦しみ、楽しんで行きます。

苦しくもあり、楽しくもあり
過ぎし日をエレキと共に
ひたきに生く
エレキ 万才!!
■ディレクターよりひとこと
 寺内タケシ氏という人は大変面白い人です。企画ミーティングの際に、曲目を示してだまってにらんでいると、それですべてをわかってくれます。また気分が乗ってくると、1日に20曲でも30曲でも弾きまくります。気分が乗らないと1曲も弾きません。またLP企画の際は、常にジャケットの絵柄が先にまとまります。ジャケットが出来て、それから内容が決まって行きます。吹込中には食事は絶対にしません。満腹になると神経がねむってしまうので、良い演奏が出来ないそうです。その代り、終った後はたくさん食べます。食べさせないと不機嫌になります。そんな寺内氏が私は大好きです。私は吹込のたびに4kgやせます。その代り吹込後に寺内氏とお腹いっぱい食べて4日後までに現状に回復しています。そんな私を寺内氏はどう思っているでしようか?〈担当テイレクター:本吉常浩〉
■カメラマンよりひとこと K. ABE
 寺内タケシ、すなわちテラさんとは度々、レコード・ジャケットの撮影でおつき合い頂いている。もっともテラさんにすればヒゲの野郎なんかと、おつき合いされて迷惑かも知れない。メンと向って喋っているとそれ程感じない事でも、カメラのファインダーを通して喋りながら何年も撮っていると、テラさんの感情とか、男としての成長する過程がはっきりと分る。ジョークをとばしたり、シーチョーを云うウラ返しには、テラさんの自分自身にきびしい性格がはっきり読みとれる。撮影の時には、いつもテラさんの方からこういうアイディアはどうだろうと必らず意見を求められる。今回の、このレコード・ジャケットにある写真の大部分も、テラさんが骨組みし、シャッターを切る瞬間に必らすアド・リブして決められて了ったものである。撮る方として、これ程楽な、又きびしい事はない。テラさんのと、僕の瞬間がぶつかり合う確率が問題だし、テラさんがいいと思ってやっていることが、こちらには全くひびかなかったりする。しかし、不思議なことに現像上りをみるとその確率は90%を越えていることが多いのである。テラさんは恐ろしい人である。
■録音メモ
1.マイクロフォン
NEUMANN社製 (ドイツ) U-87, U-67,.U-47
AKG社製 (オーストリア) D-20, D-25
RCA社製 (アメリカ) 77DX
2.調整装置
20+10チャンネル・ステレオ・ミクサー・コンソール:この装置はキングレコードが誇る超特別設計の多チャンネル用ミクサー・コンソールであらゆるサウンドを作り出す可能性を追及し、結集した回路を持ち、さらにLANGEVIN社製のEQUALIZER装置が全チャンネルに入っています。
3.イコライザー装置
LANGEVIN PROGRAM EQUALIZER
LANGEVIN GRAPHIC EQUALIZER
4.エコー装置
EMT MODEL140 FBst
AUDIO INSTRUMENT MODEL 46B
5.テープレコーダー
AMPEX MODEL 300, 351, AG350
STUDER MODEL C37
6.その他の装置
FAIR CHILD MODEL 670 (自勤レベル調整装置)
DOLBY S/N STRETCHER
SOUND PITCH CONTROL (キングレコード特別装置)
EFFECT FILTER (キングレコード特別設計)
7.モニター装置
ALTEC MODEL 604E
AMPEX MODEL SA-10
8.カッティング装置
NEUMANN社製 (ドイツ) カッターマシン
カッターヘッド MODEL SX-68

尚 S/N STRETCHERとはテープレコーディングの際にともなうテープノイズやその回路間のアンプノイズ等を除去する装置です。
SOUND PITCH CONTROLとは録音する音又は録音された音のピッチを自由に変化させる装置で、このレコディングにおいて重要な役を務めています。
EFFECT FILTERは楽器や音声の音質を大きく変えてしまうものでここでは音声に使用しています。

以上、キングレコードが誇る最新録音装置をふんだんに使用し、時間をかけて研究をさね出来あがりましたサウンドのおもしろさを充分味わって下さい。
■曲目についての蛇足:
 寺内タケシ氏がエレキの神様であることは皆さんよくご存しのことですが、また同時に民謡をエレキ化した元祖であることもご存じのことであります。今回の2枚組LPは、寺内タケシ氏のエレキ民謡の集大成として、エレキを手にして20数年の研究の成果をここに世に問う力作であります。北は北海道から南は沖縄まで、日本全国の著名な民謡を26曲取上げ、いずれも漸新な寺内タケシ氏のアレンジにより、すべてを新吹込したLPであります。寺内タケシ氏のエレキ・ギターの名人芸は申すまでもありませんが、そのすぐれたセンスによるアレンジも十二分に味わうことが出来ます。洋楽器では演奏不可能とまでいわれている日本の民謡を、ここまで自分のものとし、全26曲をスリルある演奏に仕上げた寺内タケシとブルー・ジーンズの諸兄に対し、賞讃の拍手を贈ってあげたいと思います。

第1部 津軽エレキ節 (北海道から関東まで)
(第1面)
1.津軽エレキ節 (津軽甚句唄い込み)
 このアルバム第一の力作です。「津軽じょんがら節」の大ヒットによってエレキ民謡のすばらしさを証明した寺内タケシが、今回のLPを製作するにあたって、津軽三味線の奏法を取入れたオリジナルを是非人れようということになり、ここでお聴きいただけるようなすばらしい曲が出来上りました。冒頭と末尾に「津軽甚句」をはめ込んで、郷土色を盛り込みました。ギター奏法のすばらしさと、豊かな即興力を満喫出来ます。
2.磯節
 このアルバム第一の力作です。「津軽じょんがら節」の大ヒットによってエレキ民謡のすばらしさを証明した寺内タケシが、今回のLPを製作するにあたって、津軽三味線の奏法を取入れたオリジナルを是非人れようということになり、ここでお聴きいただけるようなすばらしい曲が出来上りました。冒頭と末尾に「津軽甚句」をはめ込んで、郷土色を盛り込みました。ギター奏法のすばらしさと、豊かな即興力を満喫出来ます。
3.会津磐梯山
 福島県の民謡です。ここではアップ・テンポのロックで演奏しております。特殊ハーフ・スピード・ダビングによるギター・ソロとノーマルなギターとのかけ合いによる面白さが聴きどころです。
4.佐渡おけさ
 新潟地方の民謡です。メディアム・スローのテンポにより、原曲の良さをより美しく盛り上げますが、ここでも特殊ハーフ・スピード・ダビングによるギター・ソロが随所に入り、より一層この曲を美しく仕上げました。
5.相馬盆唄
 福島地方の盆唄です。ここではメディアム・ロックで演奏され、曲全体に楽しさが横溢しています。
6.筑波山
 寺内タケシが故郷に程近い筑波山に幼時立てこもった時に作曲したと言われる名曲で、新しい民謡として関係者の間で評判になっています。ここでもハーフ・スピード・ダビングによるギター・ソロが効果的に入ります。
(第2面)
1.北海盆唄
  北海道のもっと名高い盆唄です。ここでは軽妙な中にもユーモアをこめた楽しい演奏を聞かせてくれます。掛け声はベースの石橋君の担当です。
2.ソーラン節
 北海道の民謡の中でももっともポピュラーな曲です。ここではアップ・テンポのロック・リズムにのって火の出るようなギターのテクニックが楽しめます。エレクトーンはこの吹込に特別参加した鈴木八郎氏 (元第一期ブル−・ジーンズのメンバーで現在ソロイストとして活躍中) です。
3.斎太郎節
 宮城地方の名高い民謡です。ここではメディアム・ロックにのってメロディーを美しく歌い上げています。ラテン楽器 (カバサ) はルイ高橋君が特別参加しました。
4.おこさ節
 秋田地方の陽気な民謡です。ここでは軽快なテンポにのって、寺内タケシのギターとハーフ・スピー・ダビングのギターが交互に登場して楽しく聴かせてくれます。
5.花笠音頭
 山形地方のこれまた陽気な民謡です。ここでは前曲よりややローのテンポで、のどかな演奏を展開します。
6.津軽じょんがら節
 今更解説の必要もないエレキ民謡草分けの名曲です。この曲の大半は寺内タケシのアドリブで占められており、4分余りを白熱化した演奏で終始します。津軽エレキ節と並んで第1部のハイライトです。
第2部 安里屋ユンタ (関東から沖縄まで)
(第3面)
1.阿波踊り
 ご存じ四国は徳島の阿波踊りです。この単調な踊りの曲をいかに取りまとめるか、楽しみにしていましたが、お聴きになばおわかりのように実に楽しく面白い出来となりました。相の手はもちろんベースの石橋四郎氏です。
2.安里屋ユンタ
 日本への沖縄返還の悲願をこめて寺内タケシが精魂こめて編曲しました。沖縄民謡独特のサウンドを創り上げた手腕は賞讃に値いします。胡弓のような声はサイド・ギター相田君のソロで、その他にチャイム、ドラ、太鼓等にファズ・トーン・ギターを加えてこのようなサウンズを作り出しました。
3.黒田節
 九州地方の民謡で最も有名な曲です。ここではアップ・テンポによって勇壮な感じを出しました。2コーラス目のブルース・コードによる寺内タケシのアドリブ・ソロがすばらしい出来となっています。
4.ひえつき節
 メディアム・スローのテンポにより、この曲の悲しさを表現した寺内タケシのギター・ソロが聴きものです。早い曲でもスローの曲でも、その曲によって奏法を変えて、自分のものとする寺内氏の天才的なフィリーングは、まさに神技と申せましよう。
5.五木子守唄
 早いテンポのフォー・ビートにのったギターのアンサンブルが聴きどころです。特殊なダビングによって、この曲では同時に8本のギターが演奏されています。その内の3本が寺内タケシです。どれとどれが彼のギターか当ててみて下さい。
6.田原坂
 男性的なこの曲を表現するために、ここでは低音をフュチュアしてみました。同じ低音にしてもアンプの使い方、ピックの使い方によっていろいろな表現の仕方があるということをここで証明してくれます。
7.鹿児島おはら節
 九州南端の鹿児島おはら節を楽しく演奏します。ラテン・ロックのビートにのせてギターとエレクトーンがメロディーを演奏します。ラテン・リズムは、カバサ、コンガ、チャンチキという和洋混合編成です。
(第4面)
1.八木節
 群馬県の威勢の良い民謡です。ここではアップ・テンポの4ビートにのつてダイナミックな演奏を展開します。この曲のリズム編成は、チャンチキ、樋の胴そしてドラムです。
2.安来節
 島根地方の有名な民謡です。この曲の原曲のイメージをそのままに、ファズ・トーンでメロディーを演奏します。あの郷土色豊かな踊りが目の前に浮かぶようですね。
3.木曾節
 長野地方の民謡です。ここではこのアルバムの中でも最も早いラテン・ジャズ・ビートで演奏します。火の出るような寺内のギターソロ、そして一糸乱れぬブルー・ジーンズの演奏が聴きどころです。
4.ノーエ節
 農兵節というタイトルでも知られた静岡地方の民謡です。また「野毛の山から・・・」というところから神奈川地方の民謡とも言われています。この曲は寺内氏の最も好きな曲であり、好んでこの曲をよく演奏しています。思わず手拍手を打ちたくなるようなごきげんな演奏です。
5.よさこい節
 たいへん乗りまくった演奏です。このようなビートをブルー・ジーン・ビートと称しており、第一期ブルー・ジーンズで好んで取り上げたビートです。誰でも乗れるビートですね。アドリブもまた良さです。
6.小諸馬子唄
 長野地方のなつかしい馬子唄です。寺内タケシのギター・ソロも、その雰囲気を良く捕えており、土の香りを感じさせます。日本人でなければ演奏出来ない独特の臭みを感じさせますね。後半のオブリガートもまたみごとです。
7.デカンショ節
 アルバムの最後は、学生時代に一度は歌うデカンショ節です。一番乗り易いメディアム・ロックにのって、まことにのどかに歌います。肩のこらないリラックス・ナンバーです。これで26曲の演奏全部を終了いたしました。全体を通して言えることは、寺内タケシ氏が、エレキ・ギターと民謡とをまことに巧みに結合させて、独特のエレキ民謡を作り上げることに成功しているということをまず感じます。そして演奏者としてのみならず、編曲者としても立派な才能を持っていることに驚かされます。今後も、どしどし新しい企画によって、世界が驚くような快アルバムを作り上げて欲しいものです。

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