真夏の海をぶっとばせ!

 まず、このLPを手にした君は幸福せだと思わなければならない。世界届指のギターのテクニシャン寺内タケシが精魂こめて作りあげたサウンドがここに集約されているからである。25年のギター生活から生まれた最高のテクニック、アメリカの有名ジャズギタリストに "あなたの指を切りたい" と言わしめたその気迫が、いままでのLP以上の成果をあげたといえるだろう。数千曲のレパートリーの中からエレキ・サウンドで上位にチャートされた曲を、この夏一番の贈物として寺内タケシが厳選しオリジナルを加えた。また、寺内タケシが "エキゾチック・サウンド" に挑戦し、新境地を開いたオリジナル「ウエスト・オブ・ココス」と「夕陽と渚の七人」は特にじっくり聞いていただきたい。楽しいサーフ・パーティーに、二人の静かな語らいに、聞けば聞くほど素晴らしい "寺内タケシとブルー・ジーンズ" の演奏。そして効果音をふんだんに盛りこんだユニークなLPが完成した。
 毎年夏になると色々な企画レコードが発売されるが、その場だけのものが多い。しかし寺内タケシは、三年間の企画年数と共にこの構想のために1971年9月には、メンバーを引き連れて "グァム島" に足を伸した。
 10日間の船の往復の中で、寺内タケシは決心した。来年こそ、この企画を実現させようと・・・。彼は仲間を集め興奮さめやらず一晩話し明かしたほどである。
 彼らの乗船した "オリエンタル・クイン号" 毎晩開らかれた "コンサート" や "ゴー・ゴー大会" には、船長はじめ若い船員たち "海の男" も参加した。ミクロネシアに向って進むこの若きシーマンたちに、空天高く輝くサザンクロス(南十字星)は、微笑かけていた。この時生まれたのが "恋人たちの世界"(1月25日発売・HIT-795)であり。このLPに収められている "ウエスト・オブ・ココス"、"恋のサーフボード" である。(いずれも寺内タケシ作曲)
 まだ、このLPを一層楽しいものにしているのが、ドワイト・ローラ君の奇妙なD・Jである。彼は、アメリカ・テキサス州出身の19才の若者である。ローラ君は、寺内タケシの大ファンで、日本に来て半年しかたっていないので奇想天外な日本語で仲間を楽しませているのを寺内タケシが眼をつけ、このLPに登場したというわけ。暇な時は、カルフオルニアでサーフィンをするというウラヤマしいヤングマンである。

このLPを企画した時、寺内タケシはじめマネージャーは、"夏" に関する曲集めに奔走した。350曲近い中から数十回に亘るミーテイングをかさねて、20曲が残った。
 また、アレンジメント(編曲)の段階でレコーディング・スタッフがミーティングを重ねた。まさに、選ばれたエリート、スペシャリストのごとく厳い関門を通過してきた曲であることはまちがいない。そしてこのLPの最大のポイントは、オリジナル演奏のサウンド・イメージをくずさずに、寺内タケシがアレンジしたことである。寺内タケシは「真似することは簡単である。しかし、オリジナル・サウンドの心をよりクリアーにするには、彼ら以上のテクニックとブレーンを持つことである」と断言している。ここに登場するオリジナル演奏とは、ベンチャーズ、ビーチ・ボーイズ、アストロノウツ、スプートニクス、サファリーズ等である。
 最後の音の仕上げ(マスターリング)に、寺内タケシはじめレコーディング・スタッフは、このサウンド・イメージを大切に、一音一音に対して様々な試みを行なった。8トラック・テープから再生される各パートのサウンドを決定していく作業である。こうして全曲のマスターリングが行なわれ、S・E(サウンド・エフエクト・・・つまり効果音)とナレーションをかぶせていった。ここに収容されているS・Eは、波・海猫・霧笛・レースの通過音を中心とするあらゆるサウンドがある。是非ステレオて聞いてほしいと思うのは、これらの音は全てステレオでレコーディングされているからだ。臨場感というのは、単にステレオということでなく音の幅や広がりによる聴覚と触覚に訴えることである。(まず、この解説を読む前に、レコードに針をのせる作業を先にやりたまえ "百読は一聞にしかず"?という言葉もあるではないか!)

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